【身体障害者補助犬の普及活動への支援】 スカラー研修報告 2003年 (2)

トレーナー養成講座を受講して 〜PTからの視点〜

名古屋大学大学院 医学系研究科リハビリテーション療法学専攻
青木記念病院 理学療法士
野口裕美(のぐち・ひろみ)

はじめに

 私は現在、理学療法士(PT)として一般病院で勤務しながら大学院に通っております。ずっと獣医師になる事を目指していましたが、なぜか現在は人間を相手にしています。しかし、動物と人間の関係については常に興味を持ち続けておりました。

 そんなとき平成14年度理学療法士、作業療法士を対象にした「介助犬トレーナー研修生募集」の広告を見て、何の迷いも無く応募させて頂きましたが、頂いた結果は不合格でした。これが私にとって忘れる事のできない1回目のチャレンジとなりました。

 その後、この悔しさを方向転換し、介助犬をテーマに大学院に進学する事を決意致しました。この1年間、日本介助犬アカデミーが行う国内研修にできる限り参加し、知識を少しずつ蓄え、今回の研修に到りました。前置きが少し長くなりましたが、私の現在の状況が既に1回目の不合格から始まっている事を是非お伝えしておこうと思いました。

海外研修

 様々な研修を受講させて頂きました。その中のいくつかを紹介させて頂きます。

AAT見学

 AAT、いわゆるアニマルセラピーについて、いくつかのセッションを見学しました。内容や質に関しては様々でしたが、AATそれ自体を治療手段として用いるほか、医療の中で介助犬という手段を導入しやすくするデモ的な役割も果す可能性があると考えられました。

■実際の病室にて座位バランス及び右上肢の訓練の様子

実際の障害者の方から相談を受けて

■脳梗塞後遺症の方がコンパニオンドッグと共に生活していくために、PTやOTの視点から実際に検討する経験をさせて頂きました。

犬のストレッチング

 物理的に身体的ストレスがかかりうると考えられる作業犬においては、今後それらに対してストレッチなどのケアをしてコンディションを整えておく事が大切になっていくと考えられます。

■肩、脊椎伸展ストレッチ ■前肢の他動的屈曲

米国介助犬事情

 アメリカには日本のような認定制度がないので、医療従事者の評価も意見も得られない事がほとんどです。基準も不完全、不十分なまま介助犬が数多く活動しています。介助犬の質という点に関しては問題点も多い様に感じました。

 今回、身体障害者補助犬法で定められた日本の認定制度は、障害者の方に適切な介助犬を適切な方法で紹介するための法律であり、介助犬の質を確保する事が可能になります。介助犬の数がまだまだ少なく、これから増えていく事が期待されている日本で、法律上の認定制度になった事の重要性を深く感じました。

国内研修

 サンフランシスコSPCA(動物虐待防止協会)で介助犬と聴導犬の育成プログラムに携わっているドッグトレーナー、グレン・マーチン氏を迎え、広島県動物愛護センターにおいて収容犬の中から介助犬として適性のある犬をどの様に選択するか、その方法や基準に関する3日間の講義と、実際の犬を用いたデモンストレーションを行ないました。シェルターに収容された犬の中からでも十分適性のある犬がいる事が分り、安楽死させられる犬を少しでも減らすためにも、今後介助犬の育成手段の一つとして検討していく価値があると思いました。

■実際に犬舎前にて収容犬の中から適性のある犬を評価している様子

今後に向けて

 日本では、医療従事者の介助犬に対する認識がまだまだ低いのが現状です。びっくりするような話ですが、「かいじょけん」と言って平気で「解除権」を想像する医療従事者に、いまだによく遭遇いたします。作業療法士の間では興味を持ち始めている方々がちらほらいらっしゃる様ですが、理学療法士においては皆無に等しい状況です。

 そこで私の役割といたしましては、ひとりでも多くの理学療法士に介助犬の存在を知ってもらえる様な活動を展開してゆくこと、そして一般的な装具と同様に介助犬に関しても知識を蓄えて頂きたいと思っております。具体的には各地域での学会などで発表を重ねてゆくことなどを考えております。

 そして理学療法士として、客観的なデータに基づく、介助犬の身体介助機能面に関する研究を積み重ね、介助犬による身体介助効果について明らかにしてゆきたいと考えております。また、今後も啓発活動をさらに充実させ、使用者が介助犬の効果を最大限に引き出してゆける様な環境を作りだすために活動していきたいと考えております。

最後に、私にとっての3カ月間という長期海外生活は、日々英語に苦しむ不完全燃焼の毎日でした。特に初めの1カ月は言いたい事も言えず、聞いている事も分らず、しかし日々は英語のシャワーを浴びながら過ぎて行くといった具合でした。

こんな私でしたが、講師の先生方は見捨てることなく、どんな些細な事でも熱心に聞いて下さり、できた事を褒めて下さいました。3カ月になろうとする頃には積極的になっている自分を発見しました。

 これはまさしく犬の訓練と同じで、私は日々、先生方から常に陽性強化訓練を受けていた事に気がつきました。実際に自分自身の身を持って、訓練の効果と心地よさを経験しました。そしてこの経験は、訓練時における、患者さん方への対応から生じる訓練効果について再度考え直す良い機会となりました。

この研修に参加できましたこと、御社をはじめ、支援していただきました多くの関係者の方々に心より感謝いたします。